東直子インタヴュー⑦現代短歌の風流
東直子選 ②壁に飾ったら風流な現代の短歌 ・たくさんの空の遠さにかこまれし人さし指の秋の灯台 杉崎恒夫
「この歌は、他の歌人だと出てこないと思います」と言う東さん。 「モダンな作品を作られている作家さんで、花鳥諷詠ではない風流と言いますか、現代の口語のロマンティシズムがある。とても孤独なんだけど、それが気持ちいい。和ませてくれる優しさがある」 その中で、東さんは「灯台が人さし指のようだ」と読んだそうだ。 私は「人さし指の先の(が省略されていて)人差し指のような灯台」と読んだ。 この二重性が、一首をオブジェの如く立体的にしている。どちらで読んでも、確かに風流な一首であり、ひらがなと漢字のバランス、景色の遠近感が、壁にかけたらそよ風のごとき風情を出すことだろう。
③問答無用の現代の短歌 ・いまわれはうつくしきところをよぎるべし星の斑のある鰈を下げて 葛原妙子 ここで出ました。幻視の女王、葛原妙子さん。 ・晩夏光おとろへし夕 酢は立てり一本の瓶の中にて ・他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆうぐれの水 などが代表的だろうか。 生活の中にある、「酢」「ゆうぐれの水」と言う生活のどこにでもあるものの中に、明らかに幻想を見ている。 今回は「鰈」である。
「カッコイイですよね。まず、見た目のバランスが素晴らしい」と東さん。 ひらがなで長く伸ばされた前半。「星」「斑」「鰈」とキラキラとした漢字の入る後半。 「状況としては鰈を買って帰るというだけなんですが、鰈という日常的な魚に星の斑という美しさを見出し、その事によって日常を異化していくというか。非日常に誘う姿が力強い。」 「美しいものを下げているのだから、美しいところをよぎる「べし」なんだ、と言う。 日常に美しさを見出し、それを場所に転換させて、「私」の美意識にまで戻ってくる。いくつもすごい点がある。でも、もとを辿れば生活詠なんですよね」 ... to be continued