2022.9.某日 福岡にて
2022年、9月某日。 私は書きかけの企画書を手に、福岡に降り立った。機内で電源がとれなかったために書き上げることができなかったのだが、頭の中ではすっきりとまとまっていた。 『歴史あるテクスチャーを、毎日の中に。』 Shopの方向性は決まっていた。そして、それを最初の取扱いアーティスト候補、これからお会いする、新里明士氏に説明するのだ。 確かなことは、現在日本でずば抜けた螢手の名手であり、陶磁器に対する真摯な姿勢は、他のジャンルにおける一流のそれと同じであるということ。(因みに、赤絵細描では彼の友人でもある九谷の見附正康氏がずば抜けているので、彼以外の赤絵細描を扱う予定は今の所ない。) 新里明士氏との出会いは10年以上前に遡る。以来、家族ぐるみで仲良くさせて頂き、そのなかで様々な話をした。彼は理知的で、それゆえに迷い、閉じこもり、また形を変えていった。
私にとって、彼のインテリジェンスは大切だった。 かつて文芸誌や歌集には岡本太郎や恩地孝四郎の挿絵が入り、美術雑誌の冒頭には小説家や俳人、歌人のコラムが載っていたものだ。 柳宗悦と白樺派の距離も近かったし、真似るかのように、バブルに入って資本投下された広告の写真家達は、書籍を読み漁り、独自の文学性を築いていた者たちだった。 何より、起用する側もそれ(インテリジェンスの有無)を基準にしていただろうし、よく分かっていた。 翻って私も、彼と話をしているだけで、作品は良くなるしかないことがわかったし、事実、様々な実験を繰り返しながらそのクオリティは上がり続けた。 だからこそ、そんな彼に今度は自分の企画書を見て欲しかったし、認めて欲しかったのだ。